アルコレ戦役　20：アルヴィンチの接近とナポレオンの計画
Battle of Arcole 20

カルディエーロの戦い、アルコレの戦い

ナポレオンによるヴォーボワ師団への叱咤とダヴィドウィッチ師団の一時停止の延長

　1796年11月9日、マッセナ師団とオージュロー師団は午前中にヴェローナに到着し、マッセナ師団はカステルヌォーヴォに向かった。

　マッセナ師団をカステルヌォーヴォの向かわせたのは、時を見計らってヴォーボワ師団とともにチロル軍を叩くか、もしくはオージュロー師団とともにフリウーリ軍を叩くかを選択できるようにするためだと推察できる。

　さらにチロル軍とフリウーリ軍の侵攻が遅かった場合、12門の大砲をロンコに移動させていたことから、マッセナ師団はヴェローナを通過して攻撃を仕掛け、オージュロー師団はロンコに迂回しフリウーリ軍の左側面を衝くという計画を用意していたと考えられる。

◎ダヴィドウィッチ師団が先に攻撃を仕掛けてきた場合のナポレオンの計画

◎フリウーリ軍が先に攻撃を仕掛けてきた場合のナポレオンの計画

◎チロル軍とフリウーリ軍の侵攻が遅かった場合のナポレオンの計画

　そしてチロル軍とフリウーリ軍が同時に攻撃を仕掛けてきた場合、ヴェローナを放棄して撤退する計画だったのだろう。

　ボナパルトはバルド山のマドンナ・デッラ・コロナにいるヴォーボワに対し、マッセナの指揮下に入りリヴォリで防衛線を構築するよう命令した。

　この時、ボナパルトがリヴォリにヴォーボワ師団を集め、厳しく𠮟咤したというエピソードがある。

　「兵士諸君、私は諸君に満足していない。諸君は規律も忍耐力も勇気も見せなかった。諸君はどの持ち場も投げ出し、パニックの恐怖に身を任せ再集結できなかった。一握りの勇敢な者達が軍隊を止めることができたかもしれない位置から撤退せざるを得ないことに苦しんだ。第39半旅団と第85半旅団の兵士諸君、諸君らはフランスの兵士ではない。補給係将校、彼らの旗にこう記させよ。これはイタリア方面軍ならず！と」

　第39と第85半旅団の兵士達は涙を流し、「将軍、我々は落ち着きを取り戻しました。我々を前衛部隊に配属すれば、第39と第85半旅団がイタリア方面軍に属しているかどうかがわかります。」と数人の歩兵が叫んだ。

　これによりヴォーボワ師団の兵士達は士気を取り戻し、ボナパルトは彼らに慰めの言葉をかけたと言われている。

　このエピソードは11月8日～9日までの間に行われたと推測される。

　ダヴィドウィッチはセウレン中佐率いる左翼をルーゴの先にあるモンテッキオ（Montecchio）に進ませ、自身は中央とともにバルド山を越えてリヴォリやブッソレンゴへ前進しようと考えていた。

　しかしヴォーボワ師団がマッセナ師団により強化されたという情報（この時点では噂程度の情報）を得たため慎重になり、師団の前進の一時停止を延長させた。

フリウーリ軍のヴェローナ近郊への進出と連絡線の変更

　11月9日、アルヴィンチはモンテベロの野営地に入り、ホーエンツォレルンは、トッリ・ディ・コンフィーネに進み、そしてペラローロ（Perarolo）とヴィッラノーヴァの間に前哨部隊を配置した。

　フランス軍の前哨部隊は、サン・マルティーノ近くのヴェローナの前にあった。

　11月10日、オーストリア軍の前衛がロッタ（Rotta）とヴァーゴ（Vago）に進軍し、カルディエーロ（Caldiero）に進軍したロッセルミニ旅団はそれを支援し、前哨部隊はサン・マルティーノを攻撃した。

　これによりオージュロー師団の前衛部隊はヴェスコヴォ門の前まで後退を余儀なくされた。

◎フリウーリ軍のヴェローナ近郊への進出と連絡線の変更

　ブレンタ渓谷に残されていたミトロフスキー旅団所属の2個大隊と1個騎兵中隊の内の1個大隊と1個騎兵中隊は旅団本体と合流するためにプリモラーノを発ち、11日にはアジアーゴ（Asiago）、12日にはティエネ（Thiene）に到達した。

　残りの1個大隊はチズモーンを占領し、12日にはセウレン中佐率いるダヴィドウィッチ師団左翼との連絡を維持するためにスキオ（Schio）に向かって移動した。

　この時、ブレンタ渓谷を通りトレントを経由しロヴェレトに至るダヴィドウィッチ師団との連絡線は、スキオからレコアーロ（Recoaro）やカンポシルヴァーノ（Camposilvano）を経由してロヴェレトに至るルートに変更された。

オージュロー師団本部の移動とホーエンツォレルン将軍の提案

　オージュロー師団の前衛は、サン・ミケーレ近郊のヴェローナ側にあり、師団本体はアディジェ川と街を越えヌォーヴァ門（Porta Nuova）の前に陣取っていた。

　オージュローはヴェローナに多くの部隊を残しつつ、一部の部隊を引き連れ本部をロンコに移した。

　オージュロー師団の残りは、ゼーヴィオ、レニャーゴ、カスタニャーロ（Castagnaro）、バディア（Badia）に分散しており、12門の大砲はロンコにあった。

　ヴェローナから一部の部隊が出ていくのを見て、フランス軍はヴェローナから引き上げるだろうと判断したホーエンツォレルンはヴェローナを奪うようアルヴィンチに提案した。

　ダヴィドウィッチがリヴォリまで来ることを待っていたアルヴィンチだったが、ホーエンツォレルン将軍の提案は検討に値するものであったため、ヴェローナに奇襲を仕掛けるかを話し合うためにヴァーゴに赴いた。

　ヴァーゴで会議が開かれ、ヴェローナに奇襲を仕掛けるホーエンツォレルンの提案は少数派であり、ダヴィドウィッチ師団と歩調を合わせ、後続であるプロベラ師団を待つべきというヴァイロサー中佐の意見が多数派を占めた。

　そのためホーエンツォレルン将軍の提案は退けられることになったが、ホーエンツォレルンは威力偵察を行うことのみを許可された。