中国(中華人民共和国)が台湾(中華民国)を狙う3つの理由
2023年3月26日執筆
近年、中国が台湾に武力侵攻を行う危険性が高まっていると叫ばれています。
中国は軍事力を高めており、日本政府も自衛隊の反撃能力の保有や防衛費の増額などの対策を行うことを余儀なくされ、将来的に企業や個人への増税を行い国民負担を求める方針となりました。
中華人民共和国(中国)は、1949年に中華民国(台湾)が台湾島に逃れて以降ずっと台湾島の支配を望んでいますが、なぜ中国はそんなに台湾に執着しているのでしょうか?
報道では分かりにくい中国(中華人民共和国)が台湾(中華民国)を狙う理由について解説していきます。
※台湾が併合されてしまった場合の日本への脅威を知りたい方は下記リンクの記事を参照してください。
1、歴史的理由
結論を先に言うと、中華人民共和国にとって中華民国は、台湾島を実効支配している内戦の敵です。
1949年、中華民国は国共内戦(毛沢東率いる紅軍と蒋介石率いる国民革命軍との内戦)に敗北して大陸を追われ、10月1日に中華人民共和国が建国されました。
同年12月7日に中華民国は南京から台北に遷都しました。
当時の日本は共和制国家を目指している中華民国と仲が良く、共産主義国家を目指している中華人民共和国とは敵対関係にありました。
1971年、台北に遷都して以降も力関係で中華人民共和国を上回ることが遂にできず、中華民国は政治的理由により中華人民共和国に国際連合における「中国代表権」を奪われ、これに抗議する形で国際連合とその関連機関から脱退しました。
国連の常任理事国となった中華人民共和国は他国と国交を結ぶにあたって「一つの中国の原則」を求めており、中華民国は中華人民共和国の一部であるとして中華人民共和国と国交を結ぼうとする国に中華民国との断交を求めました。
1791年、翌年5月までにニクソン米大統領が訪中するとの発表を契機として、日本は慌てて1792年に中華人民共和国と国交正常化を行い(アメリカと中国が和解したのに日本だけ中国と敵対するのは最悪の状況となるため)、アメリカは段階的に世論を誘導して台湾から撤退し、最終的に1979年に国交を樹立しました。
その際、中国は「一つの中国の原則」を日本とアメリカに求め、日本とアメリカはこれに応じ、表向きは中華民国と断交しました。
このような歴史的経緯があり、中国(中華人民共和国)は内政問題として台湾島の領有権を主張し、それに対して台湾(中華民国)は中国大陸を不当に奪われたとして中国大陸の領有権を主張しているという関係となっています。
実質的に台湾(中華民国)は中国(中華人民共和国)の圧力によって多くの国に承認されていないだけで「もう一つの中国」なのですが、中国は「一つの中国の原則」を建前に中国の統一を成し遂げるために、「内政問題」として台湾島を手に入れようと目論んでいるのです。
2、地政学的理由
中国にとって東シナ海や南シナ海、フィリピン海などの近海がアメリカの影響下にある状況は好ましくありません。
最も発展している中国沿岸地域が米軍艦船の射程に収められており、日本、韓国、フィリピンなどの周辺国には中国を取り囲むように米軍基地があるからです。
そして、台湾島の位置は中国の海洋戦略上非常に重要な位置にあります。
※中国の海洋戦略については下記リンク記事内で解説していますので興味のある方はご覧ください。
台湾島は「東シナ海」、「南シナ海」、「フィリピン海」を結ぶ位置にあり、中国との間には「台湾海峡」、フィリピンとの間には「バシー海峡」があるため海上交通の要衝です。
◎台湾の重要性
つまり、中国が台湾を手に入れた場合、「台湾海峡」を中国の海とすることができる上、「バシー海峡」や「フィリピン海」により積極的に軍事的干渉を行い、太平洋への進出の大きな足掛かりとすることができ、これら地域においてアメリカの影響力を低下させることができるようになるのです。
そして、中国南海艦隊が潜水艦や艦船などをフィリピン海や太平洋に進出させるためには「バシー海峡」を通るルートが最も安全です。
中国が海戦でアメリカと対等に渡り合うためには東海艦隊と南海艦隊が安全にフィリピン海に進出できて共同作戦を行えることが必須であるため「バシー海峡」を押さえることができる台湾島の占領を中国は切望しています。
尚且つ、「バシー海峡」を押さえれば平時においても臨検や拿捕、中国民間船による襲撃、事故の偽装などの手段で中国人民解放軍にとっての敵性国家である日本のシーレーンを脅かすことができ、有事の際、日本のシーレーンを遮断することができます。
◎日本のシーレーン
日本にとってシーレーンの遮断は石油輸入に直結しているため何らかの代替方法が無ければ死活問題となるでしょう。
3、技術的理由
電子機器が搭載されているほとんどの兵器には半導体が使用されており、経済面はもちろん軍事面においても半導体はなくてはならないものとなっています。
軍事面において半導体は戦闘機や航空母艦、潜水艦、戦車などの主要兵器はもちろん、ミサイルやミサイル誘導システム、輸送車両や船舶、AI、CPU、情報通信機器、ドローンなど、前線、後方支援問わずあらゆるところで使用されています。
2014年、中国の半導体製造技術は、海外と比較して大きく後れをとっていました。
中国国内の旺盛な需要に対して、中国半導体産業は全くの技術力不足であり、その多くを海外からの輸入に頼っていました。
そのため習近平総書記は、半導体産業を育成するために「国家半導体産業発展推進ガイドライン(国家集成電路産業発展推進綱要)」を定め、サプライチェーン全域において世界最先端レベルの技術力に到達することを目標として中国半導体産業の発展を促しました。
2014年時点で中国製半導体の世界シェアは4%ほどだったと言われています。
そして2015年5月には10の重点分野における発展計画である「中国製造2025」が発表され、10月にはロードマップが示されました。
10の重点分野とは「次世代情報技術」、「CNC工作機械・ロボット」、「航空・宇宙設備」、「海洋工程設備・ハイテク船舶」、「先進軌道交通設備」、「省エネ・新エネ自動車」、「電力設備」、「農業設備」、「新素材」、「バイオ医薬・高性能医療機器」です。
これらの重点分野のほとんどに半導体が必要であるため、半導体産業の発展もロードマップに組み込まれ、2025年以降、製造・設計で世界先進レベルを実現し、自給率を2,528~3,814億ドル(75%)、世界シェアを4,000~5,375億ドル(46%)にするという目標が掲げられました。
中国は勢いに乗っており、これまで「韜光養晦」(爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ外交方針)だった方針は、習近平氏が総書記に就任すると徐々に変化し始め、2017年頃から一般に「戦狼外交」(対立レトリックを用い、中国への批判や論争に反発する外交方針)と呼ばれる方針が確立され、アメリカの覇権に挑戦する意思を隠そうとしなくなりました。
中国の脅威が一定の水準を超えたと考えたアメリカは、2020年8月17日、中国の華為技術(ファーウェイ)とその関連企業に対し、米国製の技術・ソフトウエアへのアクセス制限を強化すると発表して規制を加えました。
この規制の中には半導体も含まれました。
その後、バイデン政権となるとこれらの規制はファーウェイとその関連企業以外にも適用され、2022年10月、半導体への規制がさらに強化されました。
これらアメリカの規制と自国内の腐敗や失策により中国は思うように半導体技術を向上させることができなくなり、最先端半導体の製造から需要が旺盛で規制をかけづらい汎用半導体の製造に方針を切り替えたと言われています。
そのため、最先端半導体の生産を行う台湾企業「TSMC」を狙っていると考えられています。