【中国人民解放軍の脅威度】台湾有事における米中両陣営の戦力比較

台湾を巡る米中対立イメージ

2023年4月3日執筆


本記事では、台湾有事に関わる中国、北朝鮮とアメリカ、台湾、日本、韓国、フィリピンの軍事に関わる数値を比較しています。

およそ20年ほど前までは中国人民解放軍は、数が多いだけで兵器は旧式であり日本1国にも歯が立たないと言われてきました。

しかし、習近平政権になると、他国から技術力を吸収し、大きく経済発展を遂げ、その資金を使って兵器を近代化させ軍事力を急速に伸ばしています。

台湾有事の際、台湾は中国軍を撃退できるのでしょうか?

台湾有事に関わる国の軍事に関わる数字を比較しながら解説していきたいと思います。

※台湾が中国に併合されてしまった場合の影響については下記リンク記事を参照してみてください。


もし台湾が中国に併合されてしまったら日本にどのような脅威があるのか
https://senjyutushi.net/topics/Liberation-of-Taiwan.html

台湾有事に関わる国々

台湾有事イメージ

台湾有事に関わる国々を大きく分けると2つの陣営に分けることができます。

それは「民主主義陣営」と「独裁陣営」です。

※独裁陣営に属する国々は自国を独裁国家とは呼んでいませんが、実質的に個人や政党による独裁体制を敷いている国々です。

民主主義陣営に属する国々

民主主義陣営イメージ

台湾有事に大きく関わる民主主義陣営に属する国は、台湾、日本、アメリカを始め、韓国、フィリピンです。

その他にオーストラリアやヨーロッパの民主主義国家(イギリスなど)が艦船の派遣や後方支援などを行うと考えられます。

オーストラリアは遠いですが、アメリカとの同盟関係が深く、日本の同志国(同盟関係ではないが同じ志を持つ国)であるため、日米に協力するでしょう。

フィリピン軍については現段階では台湾有事の際に参戦するのかどうかは不透明ですが、フィリピンも中国が台湾を占領するとさらなる圧力を加えられる可能性が高く、何らかの形で民主主義陣営に協力すると考えられるため、この陣営に加えました。

これらの国々は公正な選挙を行って議員を選出して国を統治する方法を採用している民主主義国家です。

独裁陣営に属する国々

独裁陣営イメージ

台湾有事に大きく関わる独裁陣営に属する国は、中国、北朝鮮です。

その他にプーチン大統領が独裁体制を敷くロシアが艦船や航空機の派遣、後方支援などを行うのではないかと考えられます。

ロシアはウクライナとの戦争で疲弊していますが、ウクライナとの戦争で支援してもらっているため、中国の支援を行うでしょう。

これらの国々は軍事力や政治権力を背景とした「他政党の排除」や「不公正な選挙」などを行って民衆を支配している民主主義と偽っている独裁国家です。

民主主義陣営の強度

台湾有事に関わると考えられる米軍の強度

米軍旗イメージ

アメリカは台湾周辺国に基地を有しており、陸、海、空軍、海兵隊、沿岸警備隊を駐屯させ東アジアや東南アジアで影響力を行使しています。

2021年米国防省公刊資料などによると、世界に展開している米軍の総兵力は約1,324,000人であり、その内、アジア太平洋地域(ハワイ・グアム含む)には約132,000人が配備され、ヨーロッパには約66,000人が配備されています。

アジア太平洋地域には日本、韓国、グアムに大規模基地、オーストラリア、北マリアナ諸島、マーシャル諸島に中規模基地、フィリピンやハワイなどに小規模基地を保有しています。

ヨーロッパにはイギリス、ドイツ、イタリアに大規模基地、ロシアやイランに対抗するように中規模基地や小規模基地を保有しています。

恐らく、中国軍が台湾侵攻を行う準備段階でアメリカ軍もアジア太平洋地域に兵力を集中させ始めると考えられます。

◎在日米軍

在日米軍の兵力は全体で約55,000人であり、世界最強の艦隊との呼び声の高い「第7艦隊」約13,000人を擁しています。

日本にはニミッツ級航空母艦「ロナルド・レーガン」を始め、原子力潜水艦約12隻、艦船50~60、航空機350機が配備されています。

「ロナルド・レーガン」は原子力空母であり、横須賀基地を母港としています。

対中国の前線に関しては長崎の米海軍佐世保基地や沖縄の基地には即応部隊が配置され、中国の動きを注視しています。

◎在韓米軍

在韓米軍の兵力は全体で約23,000人であり、日本の横須賀基地を母港とする「第7艦隊」の分遣隊が派遣されています。

在韓米軍の目的は朝鮮半島の軍事バランスを保つことであり、「第8軍(陸軍)」、「第7空軍」が主力となります。

航空機はおよそ80機が配備されています。

アメリカ議員団を韓国から台湾に派遣したことで在韓米軍を台湾に向かわせることもできることを示唆したと言われています。

◎グアム基地

グアムには米軍の大規模基地がありますが、兵力は全体で約7,000人ほどと言われており、基地の規模に対して兵員数が少ない状況です。

しかし、グアムは太平洋戦略においての重要地点です。

対中国との戦時においてハワイ基地やアメリカ西岸にあるカリフォルニア州サンディエゴ基地などから艦船や航空機などを受け入れ、米主力軍の司令部が置かれ集結地点となり得ます。

尚且つ中国の海洋戦略の第二列島線沿いに位置しており、中国はグアムを突破することを戦略に組み込んでいます。

◎在ハワイ米軍基地

ハワイには約40,000人の兵力が配置されており、陸軍約15,000人、海軍13,000人、空軍約5,000人、海兵隊約7,000人、その他沿岸警備など1,000人を擁しています

数隻の原子力潜水艦など強力な兵器が配備されています。

ハワイからグアムまで約6,000㎞であり、およそ1週間~10日かかります。

そしてグアムから台湾まで約2,500㎞であり、およそ3日~5日ほどかかります。

そのため、中国が台湾侵攻の準備をし始めた段階で動き出す必要があります。

◎サンディエゴ米軍基地

サンディエゴの基地群はアメリカ西海岸最大規模です。

多くの米海軍艦船が所属しており、ニミッツ級航空母艦である「カール・ヴィンソン」、「セオドア・ルーズベルト」、「エイブラハム・リンカーン」などの母港があります。

サンディエゴからハワイを経由してグアムまでは約10㎞であり、2週間~20日ほどかかります。

そしてグアムから台湾まで約2,500㎞であり、およそ3日~5日ほどかかるため、サンディエゴ基地から艦船などを派遣する場合、中国が台湾侵攻の準備をし始めた段階で動き出す必要があるでしょう。

中華民国国軍(台湾軍)の強度

台湾軍旗イメージ

ミリタリーバランス2022年版などによると、総数17万、艦艇約280隻、潜水艦4隻、航空機520機を有しており、これらのほとんどは中国からの侵攻に備えています。

その内、実戦兵力は約94,000人ほどと見られています。

◎台湾軍の配備状況

台湾軍の配備状況

出典:「令和4年度版防衛白書」

台湾軍には米軍や自衛隊が台湾に駆け付けてくるまで中国軍の攻撃をしのぎ切ることが求められます。

そのため、上陸作戦に対する訓練などを行い、中国による台湾侵攻に備えています。

自衛隊の強度

自衛隊旗イメージ

防衛省の発表によると2022年3月時点での自衛隊の総数は約230,000人であり、その内、実戦兵力は約140,000人です。

艦艇140隻、潜水艦22隻、航空機360機を有しており、米軍と協力し、中国、北朝鮮、ロシアなどの侵攻に備えています。

大韓民国国軍(韓国軍)の強度

韓国軍旗イメージ

韓国軍の総数はおよそ555,000人、実戦兵力は約450,000人(海兵隊含む)と推定されています。

艦艇220隻、潜水艦23隻、航空機660機を有しており、米軍、自衛隊と協力して北朝鮮、中国、ロシアなどの侵攻に備えています。

ただ、共に民主党政権時は北朝鮮と手をつなぎ日米に反発する政策を取り、特に日本に対して敵対的であるため、韓国の参戦はその時の状況に左右されるのではないかと考えられます。

フィリピン軍の強度

フィリピン軍旗イメージ

2021年時点で、陸軍:推定101,000人、予備役100,000人、海軍:推定24,500人(フィリピン海兵隊8,300人を含む)、空軍:約8,000人と言われています。

3軍の合計は133,500人であり、沿岸警備隊を加えれば140,000人ほどとなります。

艦艇約80~90隻、潜水艦0隻(購入予定)、航空機約80機を有していると推定されます。

フィリピンは周辺国であるインドネシアやベトナムと安全保障協定を結んでおり、近年、国防を含むあらゆる分野での協力を強化しています。

これらは覇権を強める中国に対抗するものと考えられています。

独裁陣営の強度

中国人民解放軍(中国軍)の強度

中国軍旗イメージ

中国人民解放軍の総数はおよそ2,270,000人であり、その内約1,010,000人がアメリカ・日本・韓国・台湾・フィリピンなどに対抗していると推定されます。

艦艇750隻、潜水艦70隻以上、航空機3,030機、核弾頭350を有しており、近代化が進みその戦力を増強し続けています。

習近平氏が総書記となって以降、アメリカの覇権に挑戦する意思が表に現れ始めています。

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の強度

北朝鮮軍旗イメージ

北朝鮮軍の総数はおよそ128万人であり、陸軍102万人、海軍6万人、空軍11万人であるとされています。

艦艇800隻、潜水艦70~80隻、航空機550機、核弾頭40~50を有しており、アメリカ・韓国・日本に対抗しています。

北朝鮮軍はどれも数は非常に多いですが、その多くが旧式であり整備状況などによってどれだけ稼働できるかは不明です。


※参考文献・・・「ミリタリーバランス」、「令和4年度防衛白書」など

アジア・太平洋地域における独裁陣営と民主主義陣営の戦力比較

アジア・太平洋地域における両陣営の戦力比較

このグラフを見るとアジア・太平洋地域において独裁陣営は民主主義陣営のおよそ2倍の戦力を保有していることが分かります。

内訳は、独裁陣営:兵力2,290,000人、艦艇1,550隻、潜水艦140隻、航空機3,580機、民主主義陣営:兵力1,025,500人、艦艇800隻、潜水艦60隻、航空機1,970機となっています。

しかし、これは数字上だけのものであり、技術格差は加味されていませんので、この数字だけを見て独裁陣営の方が強いと単純に言えるものではありませんが、数の多さは純粋な脅威となり得ることがあります。

そして、これらの他に、独裁陣営側ではウクライナとの戦争で敗北しつつあるロシアがどのように動くのか、民主主義陣営側ではオーストラリアやヨーロッパの国々がどのような支援を行うのか、アメリカの他の方面軍からどれだけ増援を送ることができるかで戦力は変わってくるでしょう。

独裁陣営と民主主義陣営の経済力比較

アジア・太平洋地域における両陣営の名目GDP(2021年度)比較

名目GDPの内訳は、独裁陣営:17,776,022(中国:17,744,640、北朝鮮:31,382)、民主主義陣営:30,907,411(アメリカ:22,995,075、日本:4,932,556、台湾:774,728、韓国:1,810,966、フィリピン:394,086)

※年度:2021、単位:百万US$

民主主義陣営は独裁陣営の1.7倍であり、経済力において優位に立っています。

なぜ軍事において経済力を知らなければならないのかというと、経済の強さ≒軍事力だからです。

それぞれの国ごとにGDPの何%を軍事に使用するかの違いはありますが、GDPが大きければ大きいほどより多くの資金を軍事に使用することができます。

そして戦時下において、あとどれくらい企業の利益や国民の生活などを犠牲にして軍事に資金を使うことができるかの許容値も考察できます。

ただ、度々ニュースにもなっていますが、中国国内の数値が偽られている可能性が非常に高く、水増しされているのではないかと言われています。

そのため、実数はもっと少ないかもしれません。

独裁陣営と民主主義陣営の軍事費の推移

アジア・太平洋地域における両陣営の軍事費の推移

アメリカは800,672(百万US$)と突出していますが、アジア・太平洋地域に使用している軍事費はその一部です。

1990年~2021年の軍事費について、中国は約30倍、アメリカは約2.5倍、日本は約1.9倍、韓国は約5倍、台湾は1.5倍、フィリピンは約4倍、(北朝鮮は不明)となっており、中国の軍事費が驚異的な伸びを示していることが分かります。

1995年~1996年の第三次台湾海峡危機でアメリカ空母戦闘群に封じ込められた時点での中国の軍事費は日本のおよそ4分の1であり、日本1国でも抑え込むことが可能でした。

しかし、2021年には日本の約5.4倍となっており、立場は逆転しました。

中国の軍事費は、アジア・太平洋地域の米軍、日本、台湾、韓国、フィリピンの合計に迫りつつあり、覇権主義路線を突き進んでいます。

日本、韓国、フィリピンが参戦しない場合、軍事費においてアジア・太平洋地域の米軍、台湾の合計を抜き、有事の際、台湾は中国に併合されてしまう可能性が高くなっています。

そのため、アメリカは深刻な衝突(台湾有事)を回避するため、深刻な衝突が発生したとしても中国を抑え込めるようにするために台湾を支援し、日本に軍事力の強化を要請し、韓国を引き締め、フィリピン、インドネシア、インドなどと協力関係を築き、イギリスやオーストラリアなどへの協力の要請を行い、対中抑止力を高めています。

中国の脅威度

数字上での中国の脅威度

独裁陣営は兵力や艦船、航空機数などに関して民主主義陣営のおよそ2倍を有しており、軍事費に関してもアジア・太平洋地域の米軍、日本、台湾、韓国、フィリピンの合計に迫りつつあります。

中国は兵器に関しても旧式兵器を最新兵器に交代し、新たな兵器を加え、急速に近代化を成し遂げつつあり、数年後にはアメリカと遜色のないレベルの軍隊を目指しています。

民主主義陣営の合計には及びませんが、GDPにおいても不正確ながら大きな伸びを示しており、国民の生活や企業の利益を犠牲にして軍事力を高めています。

そのため、戦力、軍事費、GDPなどの数値から考えると、中国が台湾侵攻を決断した場合、台湾単独では全く対抗できず、アメリカ、日本、台湾、韓国、フィリピン連合軍で対抗した場合でも両陣営に大きな被害をもたらすと考えられます。

戦闘シミュレーションにおける中国の脅威度

2023年1月、米研究機関が台湾有事に関する24回もの戦闘シミュレーション結果を公表しました。

※米研究機関とは「Center for Strategic and International Studies(CSIS)(戦略国際問題研究所) 」です。

この戦闘シミュレーションは「2026年に中国が台湾を本格的に侵攻する」、「核は不使用」、「連合国側は中国本土への攻撃をしない」という仮定の下で行われたもので、アメリカや日本などの第三国が参戦も物資の援助もせずに台湾単独で戦った場合、中国は侵攻開始から10週間後に台北の総統官邸を占拠して勝利するという結果も公表されました。

※この結果は、あくまでも台湾が最後まで抵抗したという仮定の下での結果であり、途中で降伏すればもっと早く決着が着くことになります。

ですが、アメリカや日本をはじめとする連合国が参戦した場合、中国が台湾への侵攻に成功する可能性は低いという結果となりました。

戦闘シミュレーションにおいて中国は24回中21回で台湾南部への上陸を成功させ、連合国もかなりの被害を被っています。

そして1回だけ米軍が敗北するというシミュレーション結果が出ています。

米軍が敗北したその1回の条件とは「日本が参戦せず中立を保った場合」です。

基本的に戦闘シミュレーションは極秘となりますが、アメリカは公表に踏み切りました。

これは中国の脅威が高まっている証拠であり、中国の「侵攻の抑止」や「侵攻時期の遅延」を目的としていることはもちろん、もし侵攻が開始されてしまった場合に備えて「台湾の徹底抗戦」と「日本の参戦」を暗に要求したのではないかと考えられます。

「台湾が徹底抗戦しなかった場合や日本が参戦しなかった場合、中国は早急に勝利を勝ち取ることができる」ことを示唆することにより、中国共産党を誘っているとも解釈できます。

そして奇しくも戦闘シミュレーションにおいても、数字上での脅威度と同じく台湾単独では対抗できず、アメリカ、日本、台湾、韓国、フィリピン連合軍で対応した場合でも両陣営に大きな被害をもたらすという結果となっています。

ただし、このシミュレーションに地形などの条件が含まれているかどうかは定かではありません。

有事を回避するために日本がすべきこと

ワイドショーや討論番組などで「日本が軍事力を高めるから中国は日本を敵性国家として警戒する」や「日本は中国に対抗せずに軍事力を弱め、敵意が無いことを示すべき」などと何の実効的な根拠もない平和主義を報道することがあります。

これらの平和主義は「両国の緊張が高まっていない平和な期間に平和を長続きさせたい時」や「両軍の軍拡競争がピークに達して軍縮を求め始めた時」、「戦時において両軍が終戦したい時」においては有用ですが、緊張が高まっている時期においてこれらの平和主義を元に防衛戦略を決定すると逆に戦争を招いてしまう可能性が高くなってしまいます。

これまで日本は憲法第九条によって自ら戦争を行うこと、参加することを強く制限しており、日本から攻撃をしかけてくることはないことを中国は知っていますし、中国は元々日本を敵性国家と見ており覇権主義路線を突き進んでいます。

これまで日本が平和主義や思想を唱えたから中国と衝突しなかったわけでは無く、アメリカと協力しつつその防衛力によって中国を抑止してきたから衝突を回避できていました。

しかし、もし日本やアメリカが軍事力を低下させてしまった場合、中国は好機を逃さず日本や周辺国への圧力を強め、深刻な衝突が発生する可能性を高めてしまうことになるでしょう。

有事を回避する可能性を高めるために日本がすべきことは、「中国の軍事力の上昇に合わせて、もしくはそれ以上に自国の軍事力を上昇させていくこと」、「日本に課せられている軍事的制限を段階的に解除し、いつでも取り払うことができるということを暗にほのめかすこと」、「中国の軍事力を低下させるようにすること」、「他国と協力し抑止のためにあらゆる分野での連携を深めること」、「他国に日本の置かれている立場を理解してもらえるよう努めること」です。

日本が適切な対応をしたとしても衝突を回避できない可能性はありますが、深刻な衝突が起こることなく中国が抑止され、平和が続くことを願っています。