英雄ナポレオンが飲んだコーヒー3選+番外編2選 

ナポレオンが生きていた当時、フランスは自国の植民地などからコーヒー豆を輸入していました。

そして、ナポレオンは戦争で様々な国に赴いており、現地で調達したコーヒーや会談の場でもコーヒーを飲んだと考えられます。

本記事では英雄ナポレオンが飲んだ、もしくは飲んだ可能性の高いコーヒーを紹介したいと思います。

ナポレオンとコーヒー

1793年、ナポレオンはフランス革命当時で最も有力な政治家であるロベスピエールを絶賛する小冊子「ボーケールの晩餐」を執筆し、自費出版しました。

そして当時、カフェに政治家や革命家が集まって思想や政治信条を語り合ったり演説をしていたのですが、ナポレオンもカフェに通い始めます。

そこでロベスピエールの弟であるオーギュスタンは「ボーケールの晩餐」の事を知り、ナポレオンと知り合いました。

ナポレオンはさらにカフェに通いつめ、カフェ「イタリア」で国民公会の議員ポール・バラスと出会い、人脈を広げたと言われています。

オーギュスタンやバラス等有力者とカフェでコーヒーを飲みながら思想や政治信条を語り合い交流したからこそ、有力者の目に留まり、ナポレオンの出世街道が始まったのです。

そういう意味で、ナポレオンにとってコーヒーは「出世街道の起点となる飲み物」と言えるでしょう。

ナポレオンはコーヒーを愛し「強いコーヒーをたっぷり飲めば目がさめる。コーヒーは暖かさと不思議な力と、心地よい苦痛を与えてくれる。余は無感よりも、苦痛を好みたい」という言葉も残しています。

「強いコーヒーをたっぷり飲めば目がさめる」と言っていることから、主に眠気覚ましとして飲んだのでしょう。

軍では夜中に行軍して夜明け前に攻撃を開始し、その後追撃戦となることがよくあるので、ほとんど寝る暇がありません。そのため眠い頭を起こすために眠気覚ましは重要だったと考えられます。

「体を温め、勇気を引き出してくれるこのコーヒーを兵士に与えよう。余の作戦と優れた兵士達がいれば、世界は余の手のひらにあるも同然」と言って軍の物資リストにコーヒーを加えたのもナポレオンが最初でした。

これもナポレオンがコーヒーに眠気覚ましや気分を高揚させる効用があることを知っていたからでしょう。

このようにナポレオンとコーヒーは切っても切り離せない関係なのです。

1、マルティニーク島産コーヒー豆 ティピカ種

マルティニーク島のコーヒー栽培は、フランス海軍のガブリエル・ド・クリュー歩兵少尉が1723年に西インド諸島のドミニカの南に位置するマルティニーク島にコーヒーの苗木を持ち込み栽培を始めたと言われています。

当時、ガブリエル・ ド・クリューは配属先のマルティニーク島からフランス本国に一時帰国していたのですが、フランス本国の人々の生活の中に溶け込んでいるコーヒーを飲み、任地に戻ってもコーヒーが飲みたいと思い、コーヒーを栽培しているオランダ領インドネシアと似た気候であるマルティニーク島にコーヒーの苗木を持っていこうと考えました。

しかし、肝心のコーヒーの苗木が手に入りませんでした。

ガブリエル・ド・クリューは薬用植物の王立庭園(Jardin royal des plantes médicinales)にコーヒーノキがあることを知ると、フランス国王の第一の主治医であるM. デ・シラクが自分に借りがあることを思い出しました。

フランスは国王ルイ14世の時代にオランダからジャワ島由来のコーヒーの苗木を貰っていたのです。

ガブリエル・ド・クリューはデ・シラクにコーヒーの苗木を繰り返し求めました。

デ・シラクはその願いを拒否することはできませんでした。

こうしてコーヒーの苗木を手に入れたガブリエル・ド・クリューに、ついにフランス本国のナントから出港し任地であるマルティニーク島に再び戻る時が訪れました。

航海の途中、水はとても貴重でした。配給された水は1人分であり、ガブリエル・ ド・クリューはその1人分の水をコーヒーの苗木と分け合いました。

こうしてマルティニーク島へコーヒーの苗木を持ち込むことができ、コーヒー栽培が始まりました。

マルティニーク島のコーヒー豆はその生産量を毎年増やしていき、マルティニーク島からフランス全土へ供給するようになりました。

そのため、ナポレオンはほぼ確実にこのコーヒーを飲んでいるでしょう。

マルティニーク島はナポレオンの妻であるジョゼフィーヌの出身地ですので、何か運命的なものを感じますね。


マルティニーク島のコーヒー豆は日本ではなかなか手に入れることができないため、マルティニーク島と気候がほとんど変わらないすぐ北の島であるドミニカ産のコーヒー豆をご紹介します。

2、ギアナ産コーヒー豆 ティピカ種

ギアナ産コーヒー豆の栽培は1700年代初頭にまで遡ります。当時、ムールジュという人物がフランス領ギアナで罪を犯し、隣国スリナム(オランダ領ギアナ)に逃げ込んでいました。

コーヒー豆の生産を行いたかったフランス領ギアナは、すでにコーヒーの栽培を行っていた隣国スリナム(オランダ領ギアナ)からコーヒーの苗木を得ようと交渉を重ねていましたが良い返事は貰えませんでした。

それもそのはずで、当時コーヒーの苗木や栽培方法は国家機密であり門外不出だったからです。

その状況に目を付けたムールジュは「恩赦と引き換えに隣国スリナムのコーヒーの苗木を盗み出す」という交換条件を提示し、見事コーヒーの苗木を盗み出しました。

そして1722年、フランス領ギアナでコーヒーの栽培が開始されました。

現在でもコーヒーの栽培は盛んに行われています。

フランス領で作られていたため、フランス本土へも供給されていました。

そのため、ナポレオンが飲んだ可能性が高いと考えられます。


フランス領ギアナ産のコーヒー豆は日本では手に入りにくいため、コロンビア産コーヒー豆(ティピカ種)をおすすめします。

フランス領ギアナからブラジルにコーヒー栽培が伝わっていったのですが、ブラジルではティピカ種はほとんど生産されておらず、ブルボン種に置き換わってしまったため、南米でティピカ種のコーヒー豆を生産しているコロンビア産のご紹介です。

3、セントヘレナ・アイランド ブルボン種

「セントヘレナ島で一番の楽しみはこのコーヒーだ」と言うほどナポレオンはセント・ヘレナ・アイランドを愛飲していました。

ナポレオンは死の数ヶ月前から体調が悪化し、コーヒーを飲むことを止められていました。

しかし死の4日前に、ナポレオンの執事の日誌に「コーヒーをスプーンで飲ませて欲しいと眼に涙を浮かべて頼まれた」と記されています。

飲むことを禁止されていたにもかかわらず、死後、解剖されたナポレオンの胃の中からはコーヒーの残滓が見つかったと伝えられていますので、死の直前までこのセント・ヘレナ・アイランドを飲んでいたのではないでしょうか。

これらのエピソードから、セント・ヘレナ・アイランドこそナポレオンが最も愛したコーヒ ーと言えるでしょう。

1851年の第一回ロンドン万国博覧会で最高賞を受賞しており、現在でも最高級のコーヒーの1つに数えられています。

セントヘレナ・アイランドは希少であり手に入れることは困難です。期間限定でスターバックス リザーブ(R)ロースタリー 東京で飲めるようですので、セントヘレナ・アイランドを飲みたい方は販売時期を調べて足を運んでみてはいかがでしょう。

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番外編①:モカコーヒー アラビカ種

モカはイエメンの南西に位置する港街で、主にイエメン産、エチオピア産のコーヒー豆を取り扱う主要港として有名です。このモカ港から出荷されるイエメンとエチオピア産のコーヒー豆が「モカ」と呼ばれています。

日本でもお馴染みのUCCのモカブレンドもエチオピア産を主としてコーヒー豆をブレンドしています。

エチオピアは今も世界で栽培されているアラビカ種の原産国で、19世紀初頭の輸出量は約5tだったと言われています。

主に植民地などでコーヒー豆を栽培していない国に多く輸出されていたようです。

当時のオーストリア帝国などにも輸出していたと言われています。

1797年10月11日、ウディネでのカンポ・フォルミオ条約の交渉時、ナポレオンは、「さて、平和は破られ、宣戦布告がなされた。しかし、秋が終わる前に、この磁器を壊すようにあなた方の君主制を壊すことを覚えておいてください。」とレオーベン条約の正式調印に難色を示していたオーストリア政府を恫喝し、「この磁器」は壊されることはありませんでしたが、オーストリアの将軍たちをさらにふるえあがらせたと伝えられています。

「この磁器」はインク壺、花瓶、カップなどと伝えられており、もしカップであればナポレオンはこの時コーヒーを飲んでいたと考えられます。

フランスの敵国であるイギリスの「ブルーマウンテン」は流石に交渉の場に出さないでしょうし、フランスのコーヒーは飲み慣れています。

可能性としてはオランダの「インドネシア産コーヒー」、スペインの「グアテマラ産コーヒー」もしくは「フィリピン産コーヒー」、イエメンやエチオピア産の「モカコーヒー」のいずれかでしょう。

その中で、カンポ・フォルミオ条約交渉時に飲んでいたコーヒーはモカコーヒーを主としたブレンドの可能性が最も高いのではないかと考えられます。


番外編②:チコリコーヒー

1806年10月、イエナ・アウエルシュタットの戦いでプロイセン軍に大勝してベルリンを占領したナポレオンは、11月にイギリスへの対抗策として大陸封鎖令を出しました。

この大陸封鎖令はロシアとプロイセンを含めた欧州大陸諸国とイギリスとの貿易を禁止してイギリスを経済的に追い詰め、フランスの市場を広げようとの目論みのもと発布されたのです。

しかし、イギリスも対抗策としてフランスを封じ込めるために海上封鎖を行います。

当時のイギリスは海洋国家として制海権を握っていたのです。

欧州大陸への交易航路はすべて封鎖され、自国の植民地からの貿易品すら入って来ませんでした。そのため、産業革命後のイギリスの工業製品や船で貿易品を輸入していた諸国やフランス民衆の不満を買うこととなりました。

イギリスの工業製品や船での貿易品無くして経済や生活水準を維持できなかったのです。

フランス民衆の不満を買った例の1つとしてコーヒーが挙げられます。

ナポレオンの大陸封鎖令によって砂糖やコーヒーを手に入れることができなくなったフランス民衆は代用品を探しました。

ナポレオンもこの時、砂糖やコーヒーの代用品の発明を推奨しています。

その結果、砂糖は甜菜糖で代用でき、コーヒーはチコリコーヒーで代用することができることがわかりました。

チコリコーヒーは戦時中でコーヒーを手に入れることができない国やコーヒー禁止令が出た国などでコーヒーの代用品として飲まれるコーヒー風味のお茶です。

チコリコーヒーはあくまでも代用品であり、本物のコーヒーを飲めないフランス民衆の不満は決してなくなりませんでした。

自国の植民地からもコーヒーが入ってこなくなったため、もしかしたらナポレオンも甜菜糖入りのチコリコーヒーを飲んだかもしれません。



ナポレオンお気に入りの飲み方:カフェ・ロワイヤル

カフェ・ロワイヤルはフランス語で「王室のコーヒー」という意味です。

皇帝ナポレオンはカフェ・ロワイヤルを好んで飲んでいたという経緯があり、それをフランスのブルボン王家がまねをして飲むようになったことが名前の由来だと言われています。

ナポレオンのお気に入りだったカフェ・ロワイヤルは、「カフェ・ロワイヤル・スプーン」というカフェ・ロワイヤルのためだけに作られた角砂糖を燃やすための先端に引っ掛かりが付いた専用スプーンがあり、その上で角砂糖をブランデーに浸して火を着け、溶けた角砂糖をコーヒーに入れて飲む飲み方です。

ブランデーは青白く、角砂糖は赤く燃えるため、飲むまでの過程も楽しむことができます。



◎カフェ・ロワイヤルの作り方◎

1、コーヒーを抽出する

2、カップにカフェ・ロワイヤル・スプーンとお湯を入れ温めておき、小さい器に入れたブランデーもお湯の近くにおいて温めておく。

3、カップとスプーンが温まったらカップにコーヒーを注ぐ。

4、カフェ・ロワイヤル・スプーンの先端の引っ掛かりをカップに引っ掛け、スプーンでカップに橋を架ける。

5、カフェ・ロワイヤル・スプーンに角砂糖を乗せる。

6、角砂糖にブランデーをかけてよく染み込ませる。カフェ・ロワイヤル・スプーンから溢れないくらいのところまでブランデーを入れる。

7、炎を楽しむために部屋を薄暗くする。

8、ライターやチャッカマンでブランデー全体に回すように火をつける。着火するとブランデーのいい香りが漂ってきて、青白い炎の中に赤色が混じって幻想的な雰囲気を作り出してくれます。

9、スプーンの上の炎が消えたらコーヒーと混ぜ合わせ、コーヒーを楽しみましょう。

カフェ・ロワイヤルに合うコーヒー豆の銘柄

カフェ・ロワイヤルは青く赤い炎を目で楽しみつつ、蒸発するブランデーの香りをコーヒーとともに楽しむ飲み方です。

そのため酸味が少なく、甘みとコクがある銘柄がおすすめです。

個人的には「中細挽き」し、「中深煎り」くらいの焙煎度のコロンビアのエメラルドマウンテンが好きです。

「中細挽き」は市販されている多くのレギュラーコーヒーと同じ挽き方で、「中深煎り」はコクが深く少し苦みが強めです。

◎エメラルドマウンテンのコーヒー豆


◎エメラルドマウンテンのドリップコーヒー


カフェ・ロワイヤルに合うブランデーの銘柄

カフェ・ロワイヤルに合うブランデーもやはりコーヒー豆と同じく、酸味が少なく、甘みとコクがあるブランデーがよく合います。

個人的にははちみつのような甘味と黒糖のような風味を持つ「ヘネシーXO」がよく合うと思っていて、より爽やかな風味を好むなら「ヘネシー VSOP フィーヌ シャンパーニュ」の方が合うでしょう。

ヘネシーはチョコレートとの相性(マリアージュ)が良く、コーヒーもチョコレートとの相性が抜群です。

そのためコーヒーとヘネシーの相性も良いのだと思います。

もしあなたが「ナポレオンが愛したカフェロワイヤル」を楽しみたいならブランデーの銘柄は「クルボアジェ」をおすすめします。

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◎ヘネシーXO


◎ヘネシー VSOP フィーヌ シャンパーニュ


◎クルボアジェXO


ナポレオンが愛したカフェ・ロワイヤルをぜひ楽しんでみてください。