ナポレオンが学んだ軍略書
ナポレオンは様々な戦略や戦術を駆使して栄光の階段を駆け上りました。
それにはしっかりとした軍学の土台があったのです。
これから紹介するものはナポレオンが主にオーソンヌにいた頃に精読し、その思想を身に着けた書籍です。
ブールセ「山岳戦の原則(Principes de la guerre de montagne)」
ブールセは1888年に「山岳戦の原則」を出版し、山岳戦における「平行する道路に沿って別々の列に大規模な軍隊を行進させることで、攻撃または防御のために迅速に部隊を集中させる計画(分進合撃)」などの戦略的概念を考案した人物です。
分進合撃は「敵に目的地を悟らせず混乱させ続け、敵は一度に複数の場所を防御することを強いられるため部隊を分割する必要に迫られる」という効果がありました。
山岳は平地と比べて道は細く険しい地形のため移動に時間がかかり兵力を思うように集中させることができなかったため、分進合撃の概念が早期に考案されたのだと考えられます。
ナポレオンが「フランスの英雄」となる第一次イタリア遠征ではアルプス山脈での戦いが多かったため、この「山岳戦の原則」は大いに役立ったと考えられます。
Principes De La Guerre De Montagnes(山岳戦の原則), 1775
サックス「我が空想(Mes Rêverie)」
サックスはフランスの歴史上6人しかいない大元帥の1人です。
「ポーランド継承戦争(1733年~1735年)」「オーストリア継承戦争(1740年~1748年)」を戦い抜き大元帥に叙せられました。
サックスは軍の機動に重きを置いており、1758年に出版された「我が空想」では、「兵士の脚力の向上」と「軍の分割運用(師団制)」を提唱しています。
ナポレオンは「兵士の脚によって勝利を収めた」と言われていますが、その元となる書籍です。
「軍の分割運用(師団制)」を実践するためにはあらゆる地域の詳細な地図が必要だったため実現に時間がかかりましたが、ナポレオンの元上司であるカルノーによって実現されており、ナポレオンはその恩恵を受けています。
ギベール「戦術概論(Essai general de tactique)」
ギベールは「市民軍」を提唱し、その実現には革命が必要であると主張していたフランスの将軍であり劇作家です。
サックス同様、軍の機動に重きを置いており「部隊は高度な機動力を保つ必要がある」ことを説いています。
そして軍の主体は歩兵であり騎兵は急襲や追撃などでその支援を行うこと、砲兵は鈍重であるためより軽量なものを使用すべきであることを主張しました。
兵站に関しては「従来の倉庫形式ではない兵站組織の整備」と「現地民を犠牲にしてその場で兵士に資源を供給することによる軍の費用削減(現地徴発)」を提唱しています。
ギベールの言う現地徴発とは直接的な暴力による略奪では無く地方自治体などの行政機関との協定による間接的な略奪です。
ナポレオンはギベールの著作を精読し、大きな影響を受けました。
Essai Général De Tactique(戦術概論):Volume 1
Essai Général De Tactique(戦術概論):Volume 2
デュ・テイユ「野戦における新しい砲兵の使用法(De l'usage de l’artillerie nouvelle dans la guerre de campagne)」
デュ・テイユはナポレオンが大尉から将軍に昇り詰めたトゥーロン攻囲戦に参戦しており、その兄はオーソンヌ時代のナポレオンの上司でした。
デュ・テイユは大砲を物理的にも精神的にも敵を不安定化させる理想的な手段と見做しており、「大砲の機動性の重要性」、「斜めの位置からの射撃の価値」を提唱し、「集中砲火により敵戦列に亀裂を入れる戦術」などを考案しました。
ナポレオンはその大砲の運用を上司であるデュ・テイユの兄の著書から学び、トゥーロン攻囲戦において間近で目撃しました。
デュ・テイユの著作はブールセやギベールなどの著作と同様、ナポレオンの戦術思想に大きな影響を与えました。
De l'usage de l’artillerie nouvelle dans la guerre de campagne(野戦における新しい砲兵の使用法):(Les lectures de Napoléon)
ナポレオンはこれらの最新の戦術思想を学び、実践し、昇華させました。
日本語版は未だ出版されていませんが、ナポレオンの戦術の土台を作り上げた師匠達の著作をぜひ読んでみてください。
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